カラーコンタクトレンズによる眼障害について

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はじめに
近年、10代から20代の若い女性を中心に、カラーコンタクトレンズ(カラコン)による眼障害のケースが後を絶ちません。そこで、カラコンによる眼障害について総説してみたいと思います。

1)コンタクトレンズの種類
コンタクトレンズは本来、視力を矯正して生活の質を高めるために使用する道具です。特に近視・遠視・乱視の度の強い人や左右の目の度数が大きく異なる人、格闘技やサッカーなどのスポーツをする人など、眼鏡では不都合がある人などにとって、適正なレンズを正しく使用しさえすれば非常に有用です。
コンタクトレンズは大きくハードレンズとソフトレンズの2種類に分類されます。ハードレンズは現在PMMA(ポリメチルメタクリレート)という硬質プラスチックのアクリル樹脂にケイ素を混ぜて酸素透過性を高めたものが主流です。
ソフトレンズはHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)といったハイドロゲルを素材としたものが主流でしたが、最近は酸素透過性の非常に高いシリコンハイドロゲルを素材としたレンズが開発され、材質が硬いという欠点がありましたがそれも徐々に克服されてきて、ソフトレンズの主流になりつつあります。
ハードレンズには特に初心者には異物感・違和感が強くて慣れにくいという大きな欠点があります。一方でソフトレンズは装用感は良いものの、従来型のソフトレンズでは滅菌消毒やタンパク除去などと言った煩雑な手入れが必要であり、ハードレンズに比べてレンズ寿命の短さや眼障害に気づきにくいという欠点が指摘されていました。しかし1日使い捨てタイプのソフトコンタクトレンズや、簡単な手入れをしながら連続装用をせずに2週間の使用期間で捨てていく頻回交換型のソフトレンズが登場して以来、コスト高にはなるものの、それらの欠点が解消され、目に対する安全性がより高いという点が評価され、現在ではコンタクトレンズ装用者の約9割がこのタイプのコンタクトレンズを使用しています。

2)カラーコンタクトレンズの現況
コンタクトレンズは2005年4月の薬事法の改正によって心臓のペースメーカーなどと同じ高度管理医療機器のクラスⅢに分類され、製造販売には厚生労働大臣の承認が必要になりました。その一方で厚労省は、カラコンのうち、視力矯正を目的としない、いわゆる「度なしカラコン」は雑貨品扱いとして規制から外してしまいました。そのため規制を受けない粗悪なカラコンが雑貨店やネット販売で全く眼科医の手を通さずに自由に手に入るようになり、使用法を理解せずにおしゃれ目的で使用し、眼障害を生じて眼科を受診する若年者が急増することになりました。
2006年2月の国民生活センターによるおしゃれ用カラーコンタクトレンズの安全性に関する報告を発端に、カラコンの安全性が問題視されるようになり、2009年11月より度なしカラコンも高度管理医療機器としての承認が必要となりました。しかし2010年2月、厚労省は市場に出回っていたカラコンは選別せずにすべて追加承認して販売可能としたため、全く問題の解決にはつながることはありませんでした。
そのような中で国民生活センターは2014年5月22日に、国の承認を得て販売されている17銘柄のカラコンを調査対象とし、カラコンは通常の透明なレンズより角膜の浮腫を起こしやすく、8時間装用で矯正視力が低くなる傾向がみられるとする実験結果を発表しました。その中で、国の承認基準の表示の許容量を超えるものが、レンズ径については2銘柄で、ベースカーブ(レンズの丸み)については5銘柄で認められた、また着色状態を観察するとレンズの最表面に確認されたものが11銘柄あったが、うち9銘柄は「着色部分はレンズ内部に埋め込まれている」と事実と異なる表示をしていた、4銘柄は角膜側に着色されていた、1銘柄でレンズケアによる色落ちがみられた、治療やレンズ装用中止などの対応が必要な程度の眼障害が12銘柄でみられることがあった、などと報告しており、消費者へのアドバイス、業界・事業者への要望、行政への要望を行っています。また今回参考としてテストした、国が承認していない個人輸入の3銘柄では、レンズ径やベースカーブが表示値から大きく外れているものがあったり、表示自体が全くなかったりして、安全性が確認されていないので安易に購入しないようにとも呼びかけています。
さらにこの国民生活センターの調査結果を受け、消費者庁は5月28日、厚労省に対して基準見直しの検討や業者への指導を要請しています。

3)カラーコンタクトレンズの種類
カラコンの種類としてはオパーク型とサークル(エンハンス)型があります。オパーク型は色やデザインが非常に派手で色つき部分の面積が広く、瞳(虹彩)の色を変えることを目的としたレンズです。一方、サークル型は茶色や黒など比較的おとなしい色合いで色つきの部分がレンズの周辺部にあって透明な部分は比較的広く、黒目(角膜)の大きさを大きく見せることを目的としています。比較するとレンズとしての安全性はオパーク型よりサークル型の方が高いといえ、大手メーカー品は主にサークル型です。

4)カラーコンタクトレンズの使用環境
カラコンは視力の矯正よりもおしゃれを第一の目的にしているため、カラコンを取り巻く使用環境にはいくつもの問題点があります。それは、カラコンがアイメイク・アイプチ・つけまつ毛(又はまつ毛エクステ)と共に、女子高生の間では「目のおしゃれ4点セット」となっている点です。
目はアイシャドー、アイライナー、マスカラ、ファンデーション、美容液、クレンジング剤、日焼け止めクリームといった非常に多くの化粧品、多量の人工脂質に取り囲まれた環境にあります。これらの化粧品は容易に目の中に入るので眼表面とコンタクトレンズに付着して眼障害を引き起こしやすくしています。また、最近は少しずつナチュラルメイクに移行しつつあるようですが、少し前まではアゲ嬢メイクといってまつ毛の生え際より内側の粘膜インサイドラインにアイラインを引く化粧が流行していました。しかし、この部分にはマイボーム腺という角膜(黒目)が乾かないように涙液上に脂質を分泌する管があって、このアイラインはその開口部を塞ぐことになり、ドライアイを引き起こす原因になっています。ドライアイは眼表面の潤いがなくなり角膜の障害を引き起こす眼疾患のひとつです。
アイプチはのりやテープを使って簡単に二重瞼を作る方法ですが、使用する接着剤によって上眼瞼の皮膚が腫れたり、ただれたり、眼表面に炎症を起こしたりする場合があります。つけまつ毛やまつ毛エクステも同様で、使用する薬液やのり成分が上眼瞼のアレルギーや皮膚炎を引き起こしたり、結膜に付着して炎症を起こしたりします。
このようにカラコン使用者では眼障害が非常に起きやすい環境にあり、カラコンを装着しなくても既に目の健康がおびやかされている状態にあるといえます。

5)カラーコンタクトレンズによる眼障害の実際
 カラコンによる眼障害は主として眼表面の角膜に対する炎症で、以下のようなものがあります。これらはカラコン特有のものではなく、通常の透明なコンタクトレンズでも不適切な使用によりみられる眼障害ですが、透明なレンズに比べてカラコンではこれらを引き起こすリスクが非常に高くなると言えます。
① 角膜上皮浮腫: 角膜表層の上皮が酸素不足などから浮腫を起こしてすりガラス状になり、結膜(白目)の強い充血と共に目のかすみや目の異物感や痛みを生じます。
② びまん性表層角膜炎・角膜びらん: さらに症状が進むと角膜の表面に細かい点状の傷が多数生じて、かすみ目や眼痛がひどくなります。
③ 角膜上皮剥離: 角膜びらんがひどくなると角膜上皮の一部が島状に脱落します。つまり黒目の皮が一部むけた状態になり、眼痛はさらに強くなります。
④ 角膜浸潤: 角膜の表層(黒目の内部)の一部に炎症細胞が集まり、黒目に炎症性の白点が生じます。数ヵ所出る場合もあります。
⑤ 角膜潰瘍: 角膜(黒目)の深部まで炎症が及んで、角膜の実質が溶けて表面がいびつになります。ここまで来ると炎症がおさまって治ったとしても、黒目の表面のいびつさや濁りが残ってしまうため視力は元には戻らないことが多くなります。
⑥ 角膜感染症: 角膜の防御力が弱くなっているため、角膜の傷口などから様々な種類の細菌が感染しやすく、感染症を起こすと黒目が白濁して失明する危険が増します。アメーバの一種であるアカントアメーバが感染すると最重症の角膜炎を引き起こすことがあります。
⑦ 角膜パンヌス: 自覚症状はほとんどありませんが、コンタクトレンズ装用によって角膜の慢性的な酸素不足が続くと、本来血管のない角膜の内部に周辺部から新生血管が侵入し角膜炎が起こりやすい状態になります。
⑧ 巨大乳頭結膜炎: 上まぶたの裏に石垣状のブツブツ(乳頭性増殖)が多数できるアレルギー性の眼障害で、主にレンズの汚れが原因とされています。眼脂質(めやに)や目のかゆみがひどくなり、レンズはますます汚れてずれやすくなります。

6)カラーコンタクトレンズの問題点
 通常の透明なソフトコンタクトレンズと比較して、カラコンにはどういう違いや特有の問題点があるのかを考えてみます。先述したカラコン使用者を取り巻く環境、目のおしゃれ4点セットもカラコン特有の問題といえますが、ここではカラコン自体にかかわる問題点を指摘したいと思います。
カラコンによる眼障害を引き起こす問題としては、
①レンズ自体の質の問題、②レンズケア等使用に関する意識の問題、③カラコン依存症の問題、の3つの要素があると考えられます。
①カラコン自体の質の問題: カラコン自体の質に関してはいくつかの問題点が指摘されています。
一点目は、レンズの材質・品質の問題です。日本で出回っているカラコンの大部分は酸素透過性の低い低含水ハイドロゲル素材のレンズです。これはソフトコンタクトレンズ開発初期の素材で、レンズの中心の厚みが薄いものなら酸素透過性の低さをカバーできるのですが、カラコンでは中心厚の厚いものが多く、周辺の着色部分はさらに分厚くなっていてクリアレンズに比べると極めて酸素透過性は低くなります。また、レンズの厚み(中心厚)、丸み(ベースカーブ)や度数(パワー)、大きさ(レンズ径)などのばらつきが大きく、品質管理や製造工程に問題があるのではないかとも指摘されています。
二点目は、着色色素に関する問題です。着色部位に関してはレンズの内面側か外面側か、また着色方法に関しては着色してあるシートを挟み込むサンドイッチ型か、色素をレンズ素材に内包させる埋め込み型か、最も粗雑な吹き付け型などがあります。埋め込み型の一部や吹き付け型ではこすり洗い負荷で色落ちするレンズが見られます。そこで問題になるのは着色剤の素材の問題ですが、カラコンに使用される顔料は主としてフタロシアニン系着色剤などの有機顔料か、酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物です。酸化チタンは化粧品や食品加工にも使用され、一応人体への影響は少ないとはされていますが、色落ちインクの付着による角膜への影響は否定できません。また、色素が剥がれ落ちた場合にはレンズ表面には凹凸が生じるので眼表面に機械的刺激が加わったり、微生物や汚れが付着して感染症を起こしやすくなったりします。仮に色素が脱落しなくとも、色素が載っている部分はレンズの表面が凸凹の不整になったり、レンズの形状が不均一になったりすることにより、レンズのフィッティング不良が起きて、角膜障害が起きやすくなることも考えられます。また、着色色素があることによってレンズの酸素透過性にも悪影響を及ぼしている可能性も十分にあります。
②レンズケア等使用に関する意識の問題: カラコン使用者はファッション感覚で興味を持ち、眼科医の指導を受けることなく、我流でレンズ装用を始めた人が多いようです。そのため、カラコン使用者には、何度となく眼障害を起こしてもカラコンの使用をやめない、まともなレンズケアを行わない、レンズをつけたまま寝る、使い捨てやレンズ交換などの使用期限を守らない、友人とレンズの貸し借りをする、透明な度入りレンズと2枚重ねをして使用する、眼科医の処方を受けずにレンズを購入する、眼科で定期健診を受けない、などの傾向が強くみられます。カラコン使用者に共通する性質として、病識・常識・知識の「3つの識」が欠けているとまで言われています。
③カラコン依存症の問題: 中高生ぐらいから年齢を重ねるほど、大多数の女性にとって外出時の化粧・おしゃれは必要不可欠なものになってきます。最初は興味本位や遊びで始めたカラコンが、「目ぢから」を重視するあまり、先に述べたような「目のおしゃれ4点セット」として自分の中で定着してしまうと非常に危険なことになります。こうなると粗悪なカラコン装用で眼障害を繰り返し、眼科医から「視力障害が残りますよ」あるいは「失明すらしかねませんよ」と警告されてもカラコンを外すことができなくなってしまいます。もはやこれは煙草や麻薬と同じように依存症に近い状態に陥っているわけで眼科的な治療に加え、場合によってはカウンセリングや薬物療法など精神科的な治療が必要になるかもしれません。

7)カラーコンタクトレンズの眼障害から目を守るための方策
 つまり、カラコンは通常の透明なソフトコンタクトレンズに比べて様々な点で品質に問題があるレンズが多く、カラコン使用者はレンズケアの意識が顕著に低い傾向があり、なおかつ依存症に陥りやすいため、より高頻度でより重篤な眼障害を起こしやすい、ということになります。そこで、カラコンによる眼障害から目を守っていくためには、①コンタクトレンズ・カラコン使用者に対する啓発活動、②コンタクトレンズ業界の意識改革、③行政の積極的な関与、などの方策が考えられます。
①コンタクトレンズ使用者への啓発活動: 最も大事なことは、カラコン使用者がその危険性をしっかりと認識した上で、必ず眼科を受診して自分の目にあったレンズを処方してもらい、正しい指導を受けることです。レンズの使用期限を守り、正しいレンズケアを行い、眼科医の定期検査を受けながら、目に異常を感じたら直ちにレンズ装用を中止して眼科を受診する、という当たり前のルールを実践することです。
眼科医会や眼科学会、コンタクトレンズ学会が中心となって積極的に啓発活動を行っていますがすぐに成果が出るものでもなく地道な活動の継続が必要です。最近はテレビや新聞でもこの問題がしばしば採り上げられていますが、繰り返しテレビ、新聞、雑誌などのメディアを通して話題に上るようになればもっと大きな効果が期待できるでしょう。特に若い女性に人気のあるファッション誌などではカラコンの使用をあおるような記事だけではなく、ケア意識を高めるような記事も同時に掲載してもらいたいと思います。
また、眼障害を未然に防いでいくためには、現在のカラコン使用者にとどまらず、今はコンタクトをしていなくても、視力が良い人でも、可能性のあるすべての若年者に啓発していくには中学校や高校の学校現場の中で意識を高めていくことが最も有効であると考えます。
②コンタクトレンズ業界の意識改革: コンタクトレンズ業界には事業者としての倫理観が問われています。利益を最優先して使用者の目の安全を軽視する姿勢には改善を求めたいと思います。カラコンのみならず、コンタクトレンズを使用する上での当たり前のルールを使用者にきちんと伝えるのはコンタクトレンズを製造・販売をする事業者にとっては当然の義務です。また、特にカラコンの中にはレンズのデータ表示や注意書きの文字が極端に小さかったり、表示に偽りや誤りがあったり、表示自体がなかったり、表現に至るまでわかりにくかったり、不誠実なものがしばしば見受けられるので改善が必要ですが、このようなレンズがろくなものでないことは推して知るべしと言えます。
カラコン製造者に対しては、レンズの素材や厚み、着色の材料や方法等を改善して、眼障害を起こしにくい商品の開発、品質管理の徹底を望みます。コンタクトレンズにかかわる事業者はすべてレンズ使用者に対して正確で適切でわかりやすい情報提供を行うべきです。また、雑貨店やネット販売では眼科医の処方がなくても形の上だけ承諾書を取り、あとは使用者の自己責任だと言わんばかりに、粗悪なカラコンとわかっていながら利益を優先して平気で販売しています。まず無理でしょうが、カラコン販売者には眼科医の処方や指定がないと販売しないというぐらいの強い姿勢を望みたいと思います。
③行政の積極的な関与: 国民生活センターは今回の調査結果を消費者庁の消費者安全課と表示対策課、内閣府の消費者委員会事務局、文部科学省のスポーツ・青年局の学校健康教育課、厚生労働省の医薬食品局に対して情報提供を行っています。
中でも最も関与すべき厚労省はこれまで粗悪なカラコン規制に対してあまりにも消極的でした。厚労省自身がコンタクトレンズを高度管理医療機器に指定しているのだから、コンタクトレンズ販売者に対しては、眼科医の処方や指定がなくレンズを販売することを禁じ、行政指導に従わない者に対しては高度管理医療機器の販売認可の取り消しを行うぐらいの強い姿勢で臨むべきです。また、カラコン製造業者に対しては安全性の高い透明なソフトレンズに匹敵するくらい質の高いカラコンの開発を促してほしいと思います。
消費者庁には、若い女性全般を中心とした消費者を対象に、粗悪なカラコンの危険性を啓発し、眼科医に相談した上でカラコンを使用するよう積極的な啓発活動を行うことを望みます。文科省には特に中学高校の現場で学生に対して啓発活動を行うよう行政指導して頂きたいと思います。また、国民生活センターからの情報提供を受けて、内閣府からも厚労省、消費者庁、文科省に対して積極的な対応を取るように強く促すことを要望します。

おわりに
 現時点では、同じソフトコンタクトレンズといえども、カラーコンタクトレンズは通常の透明な使い捨てコンタクトレンズとは似て非なる異質のものと認識すべきでしょう。それはやはり、レンズの使用が視力矯正であるのか、化粧の一部・おしゃれであるのかという目的の相違がはっきりしているからです。それ故に、カラコンの製造者・販売者もレンズの安全性を軽視し、ファッション性や低価格ばかりを売りにする傾向が強く見えます。厚労省による行政指導も期待できず、カラコン使用者の自己責任ばかり強調される中で、カラコンによる眼障害からユーザーの目を守るためにはユーザー自身がカラコンに関する知識を増やして意識を高めていくしかないように思います。カラコンは視力に関わらず使用する可能性があるので、小学校高学年や中学生など、早いうちから学校現場でその危険性を啓発していくべきだと考えます。